1月に読んだ本(+おまけ)

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  • 自分のための記録だけど、この本読んでみたい!ってなる人がひとりでもいたら嬉しいな、と思い、放流します

  • 仕事で読んでる本は、その旨公表できないものもあるので、基本的に入っていません

  • 残念ながらおもしろくなかった……という本も入っていません

  • 得意技:ブーム乗り遅れと積読

  • ジャンルさまざま乱読。残念ながら日本語になっていない本もまじっています(将来の翻訳刊行を願って!)

  • もともと個人的な記録なので、いつも以上に乱文です、あしからず

 

リーヴ・ストロームクヴィスト『21世紀の恋愛――いちばん赤い薔薇が咲く」(花伝社、よこのなな訳)

https://kadensha.thebase.in/items/38839740

厳密に言うと昨年末に読んだんだけど、翻訳も出ることだし、すっごくおすすめなので、せっかくだから書いておきたい。リーヴ・ストロームクヴィストは、女性の体をテーマにした『禁断の果実』も最高に面白いけど、「恋愛」にメスを入れたこの新作も、コミックという形で恋愛の歴史や哲学を紹介していて、やっぱりとても痛快。

「レオナルド・ディカプリオは25歳を超えた女性と付き合えない」件の検証で幕を開けるので、これはまた「まったく男ってのは、女の若さばかりに価値を置いて、しょうもない……」という方向にでも行くのかと思ったら、そうではなくて、現代の恋愛観をばっさばっさとぶった斬る、もっと深い内容だった。恋愛というのが、どれほど文化的に条件づけられたものか。普遍の真理と思っていることだって、じつはただの思い込みにすぎない。「男は女ほど恋愛関係にコミットしたがらない」という、たいへんよくある言説も、「男には狩猟本能があって……」とか「昔の狩猟採集生活の名残りで……」とか、もっともらしい説明をいろいろ聞かされてきたけれど……なんだ! そーいうことか!

ずっと異性愛がスタンダードとされてきたせいで、恋愛に関する言説がややこしくなっているのかもしれない。恋愛が、男女の力関係と切っても切り離せないものになってしまったから。でも、これからはもう、そうである必要はないし、そうじゃない恋愛を模索するのは、きっとすごく楽しいと思う。ストロームクヴィスト節に大笑いしながらこの本を楽しく一気読みして、そんなことを思ったし、ここで語られたさまざまなことに対して、自分がどんな気持ちで、どんなことを経験してきたかについて、もっとじっくり考えてみたくなった。

さて、ヒルダ・ドゥリトルという詩人、寡聞にして知らなかったのだけれど、恋に落ちたのを「いちばん赤い薔薇が咲く」と表現したのは、すごいですね。生々しい実感として伝わってくる。花が咲くのと同じ、純粋な生/性への希求を感じる。恋愛って、さまざまな言説でがんじがらめにされているけど、結局、生命力の発露なのか。咲かずにはいられないもの。ある意味、自我を崩壊させるからこそ、生きている実感につながる。やっぱり深いテーマですね。

あと、表紙のルー・ザロメ! 大昔に気になって伝記も読んだなあと思ってちょっと懐かしかった。高校生だったか。映画『善悪の彼岸』を見たのがきっかけだったけど、いま考えると当時あの映画のなにを私は理解していたのか。なにも理解できてなかったような気もする。映画見直すか。

David Attenborough, A Life on our planet

BBCの自然番組で有名なデイヴィッド・アッテンボロー氏の回想記。地球環境の現状と未来への提言を記した本でもある。同名のドキュメンタリーが去年、Netflixで公開されている(私はNetflixに登録していない少数派で、残念ながらまだ見ていない)。

じつは私、この人の大ファンでして。やってることは全然ちがうけど、ある意味ロールモデルと言っていい。たとえばなにか無駄遣いしそうになったときに、「ちょっと待て……デイヴィッド・アッテンボローはきっとこんなもの買わないぞ」とか頭をよぎるぐらいには、好き。この本でも、昔を振り返っているだけではなく、新しいことをちゃんと勉強してどんどん吸収しているのがわかる内容で、90歳を超えてなお、これほど知的でアクティブでありつづけることができたら、どんなにいいかと思う。あーやっぱりNetflix登録するか。登録してこれ見てすぐやめればいいのか。

内容についても少し。彼がBBCの仕事を始めてから現在までという短期間で、地球環境がどれほど激変したかがはっきり伝わってくる。現状を考えると絶望的な気持ちになるが、希望もないわけではない。未来への提言ではRewild(野生に戻すこと、野生を再興させること)が大きなテーマだと思う。日本語に訳される予定はあるのかな…… とても大切な本だと思うのですが。

この本ではもちろん自然環境のRewildingの話をしているんだけど、最近の私は人間のrewilding(精神的・身体的)にも興味を抱いている。案外それが鍵を握っているのではないかという気がする。まあ人間も自然環境の一部なのだから当然といえば当然だけど。

Kerstin Ekman, Hunden(犬)

シャシュティン・エークマンという作家の自然描写は最高だとつねづね思っているのだけれど、この本もすばらしかった。そして犬好きにはたまらない本。北国の冬、うっかり家を飛び出してしまった子犬が、そのまま家に帰れなくなり、森の中でひとりきり生き延びていく話。冬に始まる森の四季が、犬の視点から語られる。といっても犬がへんに擬人化されているわけではなくて、そこがすごくいい。ややこしいことは全然考えてなくて、とにかく生命力の命じるままに生き延びていく。

犬を飼っている人には共通する経験かと思うのですが、散歩中に犬はいろいろなにおいを嗅いで、同じ犬だけでなく、鳥やうさぎなど、ほかの動物たちの痕跡も確認して、いろいろ理解しているフシがある。それはほかの動物たちも同じで、互いに情報交換しながら共存しているのがうっすらと見える。「もしかして、アホでなにも分かってなくて仲間外れなのは人間だけ……?」という気がしてくる。

この本でも、子犬は森のさまざまな動物たちと共存していくすべを、生まれながらにして身につけている。キツネと縄張りを尊重しあってみたり、ビーバーの働くようすを眺めてみたり。そうした描写が、繰り返しになるけど、へんに擬人化されていないのがいい。動物どうしの、言葉のないコミュニケーションが成立している。それを人間の言葉で表現するしかないっていうのがまた逆説的ではあるんだけど。

やがて子犬はもとの飼い主と再会するのですが、すぐに「感動の再会!」とはなるわけではない。ある意味、動物どうしとして、子犬と人はコミュニケーションを徐々に深めていく。そのようすがまたグッとくるのですよね。犬が人間を信頼するというのがどれほどすごいことか、あらためて実感させられる。

とくに冬は厳しいので、最初のほうとか、犬好きとしては読んでいてつらい場面もある。これで「子犬は死んでしまいました」という結末だったら、きっと立ち直れない……! そう思って、結末を先にチェックせずにはいられなかった。大丈夫、安心して読めました……

Alexandra Pascalidou, Mammorna(母親たち)

スウェーデンだけではないと思うけど(少なくともフランスに同じような構造があるのは知っている)、都市の郊外に、安価な集合住宅が立ち並び、低所得層の多く暮らす地域がある。たとえばストックホルムの場合、中心部のエステルマルム地区と、郊外のアールビーは地下鉄でつながっているけれど、この本によれば、平均所得は前者が37,766クローナ、後者が14,500クローナなのだそうで、別の国かと思うほどの格差である。治安が悪く、ギャングが跋扈して銃撃事件が起きたりしているが、こうした地域の外に住む人たちはたいてい、ニュースでそれが報じられても「ああ、あの地区、またか」という反応で、No-go zoneなんて呼んだりもする。そういう地域には往々にして移民が多いので、人種差別が「あの地区は危ない、良くない」という形にすり替えられて、堂々と行われていたりするもする。

そういう地域に暮らす「母親たち」に焦点をあて、彼女たちの証言を集めたのが、この本。何年か前に出て話題になっていたけれど読み逃してしまっていた。

当たり前だけれど、さまざまな人がいて、さまざまな物語がある。息子や夫がヘイトクライムの犠牲になった人もいれば、息子が犯罪者となってしまった人もいるし、地域で積極的に女性の地位を上げる活動をしている人もいる。印象的だったのは、外からはno-go zoneなんて呼ばれるこれらの地域で、彼女たちの多くは、他文化への寛容と助け合いの精神を感じている、ということ。息子たちが犯罪集団に取り込まれたり、犯罪の犠牲になってしまったりするのは、個人のせいではなく、ひとえに社会システムの問題だということ。

正直、スウェーデン社会でもっとこの件が話題にならないのが不思議でしょうがない。本来なら政治的アジェンダの上位にあるべき問題だと思う。結局、権力を持っている側にとっては無関心でいられる問題だから、ということなのだろう。「女性問題」がじつは男性の問題で、「黒人問題」がじつは白人の問題であるのと同じように、no-go zone問題は、その外にいる人間たちの問題だ。

ちなみに、ルースルンド&ヘルストレムで一作だけまだ翻訳できていない、Två soldater(ふたりの兵士)という小説があるのだけれど、これはまさにno-go zoneでの若者のギャングがテーマ。すっごく長いのと(原書で700ページ近く、日本語にしたら1,300ページぐらいになるかも)、日本の読者にはあまりにもピンとこないテーマなのでは、というのがあって、まだ翻訳が実現していないのだけれど…… うーん、やっぱり重要な本なのではないかという気がしてきた。

ヨルン・リーエル・ホルスト『警部ヴィスティング カタリーナ・コード』(小学館、中谷友紀子訳)

https://www.shogakukan.co.jp/books/09406654

読みたいと思いながら機会を逃していたけど、北欧ブッククラブの課題書に選ばれたので喜んで読んだ本。やっぱりとてもよかった。すごくバランスの良い小説、というのが全体的な印象。最初にコールド・ケースの謎が(しかも「暗号」というひじょうにクラシックな謎を含む!)提示されるので、あっというまに引きこまれる。謎解きの要素は伏線もがっちり張ってあって面白いし、ハラハラドキドキさせられる場面もあり(猫が!とか)、そして警察小説としても本格的。中央からエリートがやってきて所轄の刑事をいいように使おうとする、という構図は日本の警察小説でもよくあるパターンだけど、この作品はそれだけにとどまらない感じ。人物造形がしっかりしていて、エリートの危うさも描かれているからかもしれない。

主人公が地味といえば地味だけど、裏を返せばどこにでもいそうな良い人で、安心感がある。スウェーデンのミステリって刑事がいろいろと問題を抱えていて危うい小説がほんとうに多くて、ときどき「またかよ……」ってうんざりするのですが、ノルウェーにはこういうまっとうで地味な刑事さんの出てくる小説がそれなりにある印象(その対極ももちろんあるわけですが。ジョー・ネスボとか)。安心して事件の物語に集中できる。いいものを読んだ、という満足感がしっかり得られる小説。

おまけ

ひょんなきっかけで発見して聴きはじめたポッドキャストがおもしろすぎて、全エピソード通しで聴いてしまった。とくに第1エピソード、私が2020年ふりかえりの記事で書いた「経済ってなんだったんだっけ?」という疑問にジャストミートで、思わず勢いで彼の博士論文をダウンロードしてしまった。読む……!(いつだ) 英語です。どのエピソードも大変におすすめ。

https://forestofthought.com

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