『すばる』8月号に寄稿しました(+ボツ原稿供養所)

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『すばる』8月号、特集「ウイルスとの対峙」に寄稿しました。貴重な機会をいただけたことに、心から感謝しています。ほかの記事どれもすばらしいです……

COVID-19対策に関しては、スウェーデンのとった政策が期せずして注目を集めたせいで、じつはパンデミック初期に取材や執筆の依頼をいくつかいただいたのですが、この記事の冒頭に書いたような理由でお断りしていました(すみません)。ですが、今回は『すばる』という媒体で、「政策がどうのという話ではなく、生活者としての実感を」というご依頼だったのと、世界の様相が一変してから少し時が経ち、この時期に考えたことを自分なりにいったん整理したいという思いもあって、ありがたくお引き受けすることにしました。

とはいえ、なにを書くかは相当に迷いました。初めは、観葉植物を枯らす達人である私が、この春はバルコニーに盛大に花を咲かせている(つまり日々の生活の細部に目が行っている)話とか、街がひっそりしている一方で公園の桜や森のアネモネが満開になっていた話とか、「オンライン・イースターディナー」がポシャった顛末とか、そういったことをちょっと面白おかしめに書こうとしていたのですが、「なんか違う……すごい違和感……」という思いがどうしても抜けず…… その違和感を突きつめた結果が、掲載された記事です。内容があまりにも当たり前すぎる気がして自分でも凹んだのですが、なんにせよこれが偽りのない、いまの実感です。

そしてもうひとつ、考えていた路線があるのですが、これちょっと環境オタク色が強すぎてジャンル違いだわ、と思ってやめました。それをここに書いておこうと思います。上の「花が満開になっていた」話と少しつながるのですが。

3月以来、世界の国々が次々とロックダウンを決めていくのを見ていて、ひとつ思ったのは、「やろうと思えばこれぐらいできちゃうんだな」ということでした。危機が差し迫っているとなったら、たとえ経済が大ダメージをくらうことになろうと、各国の政府はここまですることも辞さないんだな、と。そして、もうひとつの差し迫っている危機(見方によってはさらに大きな脅威)、つまり気候危機に対しては、なぜこういう対応にならないのだろう、ということも。 

差し迫っていると感じられないから? これから10年で温室効果ガス排出量を半分にし、2050年までに実質ゼロにしなければ、地球の気温上昇は1.5℃を超え、もはや人間にはコントロールできない、取り返しのつかない変化が起こる可能性がある、といわれています。じゅうぶん差し迫っている、というのが、2015年パリ協定の認識だったと思うのですが。

今回のパンデミックで、移動や経済活動が制限された結果、二酸化炭素排出量が2019年よりも17%減という試算があるそうですね。大気汚染が解消されたとか、数十年ぶりにエベレストの頂上が見えるようになったとかいった報道もありました。

その一方で、ここまでしても17%しか減らないのか、と思ったことも事実です。これだけ人々が行動を制限しても、これだけ経済が大損害をこうむっても、17%しか減らないのですね。そうなると、やはり社会を死なせずに排出量を減らすには、政策レベルで化石燃料を減らし、再生可能エネルギー技術や循環型経済を補助するしくみが必要なのだと実感します。個人が排出量を減らす努力をすることには意味があるけれど、それだけではどうにもならない。私も一介の環境オタクとして、個人的にいろいろ工夫してきたけれど、これからはどんどん政治への働きかけもしていかなければ、と考えるようになりました。

よく「地球を救おう」とか「自然を守ろう」とか言いますよね。でも、考えてみると、地球は人間がいなくなっても、なんの問題もなくやっていけるんですよね(むしろ人間がいないほうがいいのかもしれない)。気候危機に取り組まなければならないのは、地球を救うためではなく、ひとえに人類を、自分たちを救うためにほかなりません。

それもまた、この春に実感したことのひとつです。ウイルスひとつで人類が右往左往する中、草木は芽吹き、花は咲き、自然は人間の営みにかかわらず、ただそこに存在している。COVID-19による危機も、気候変動による危機も、そこから人類を救わなければならないという意味では同じです。地球はいずれにせよ問題なく存続するので。

だから、ほんとうは、気候危機にもCOVID-19に対するのと同様の危機感をもって取り組まなければならない。今後、ウイルスの脅威が去ったとしても、それからただ元に戻ってしまうだけでは、次なる危機が襲ってくるだけだと思うのです。

スウェーデンでは毎年、夏になると、各界の著名人がホスト役を務めるラジオトーク番組が放送されるのですが、今夏そのトップバッターとなったのが、環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんでした。英語版もあるので、ぜひ聴いてみてください。これを聴いて恥じ入らない大人がいたらお目にかかりたい。(いや、むしろお目にかかりたくないかもしれない……)

https://sverigesradio.se/avsnitt/1535269

「科学者の言うことに耳を傾けて」というのがトゥーンベリさんの一貫した主張なので、こちらも紹介します。環境学者ヨハン・ロックストローム氏のトークです(英語)

https://sverigesradio.se/avsnitt/1425542

日本の環境省が公開しているIPCC報告書関連資料はこちら。各作業部会の概要が参考になります

http://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/

考えてみたら、「文芸誌だしジャンル違いだわ」なんて言っている場合ではなかったかもしれない。あらゆるジャンルの人間活動に関係のある話ですもんね。

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