ルースルンド&ヘルストレム『三分間の空隙』刊行

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新しい訳書が刊行されました! ルースルンド&ヘルストレム『三分間の空隙』(早川書房)です。

上巻:https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014588/author_HAgyo_HE_100848/page1/order/

下巻:https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014604/author_HAgyo_HE_100848/page1/order/

角川文庫から出ている『三秒間の死角』に連なる、グレーンス警部シリーズ7作目です。(いまのところ、『三秒間』と『三分間』のあいだの6作目が未訳です。)

あらすじや内容について、ネタバレせずに語るのが難しい作品なのですが……

今回は、舞台のスケールがぐんと広がります。それにともなって、ストックホルムの警察本部に住んでいるも同然な、行動範囲がほぼ半径数キロメートルの男グレーンス警部が、いきなり広い世界へ旅をして、ちょっと意外な一面を見せてくれたりします。

グレーンス警部シリーズらしくないようでいて、血湧き肉躍る物語の底に一貫して流れるテーマ、その着地点は、やはり、これぞルースルンド&ヘルストレム……!と私は思いました。日本の読者の方々に、どんなふうに読んでいただけるか、とても楽しみです。

版元、早川書房さんからのnote記事です。

「年間ミステリ・ランキング1位作家が放つ超大作クライム・ノヴェル『三分間の空隙』発売中!」

https://www.hayakawabooks.com/n/n04a217e4429d

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ここからは、『三分間の空隙』と直接関係はないのですが、ひとつ紹介させてください。

今回、スペイン語の単語や名前、地名がたくさん出てきたので、読み方や意味を調べる際に、現地の事情にくわしい常盤未央子さんにご協力をいただきました。(言うまでもありませんが、すべてをひとつ残らずうかがったわけではありませんし、もしなにか誤りがあったら、それは全面的に訳者である私の責任です。)

その常盤さんは、以下のような本を翻訳されています。

『サバイバー 池袋の路上から生還した人身取引被害者』(マルセーラ・ロアイサ著、常盤未央子・岩崎由美子訳、ころから) https://www.amazon.co.jp/dp/4907239203/

タイトルのとおり、コロンビア出身の女性が人身売買の被害者となって日本へ渡り、売春をさせられた経験を語った、ノンフィクションです。

やはりルースルンド&ヘルストレムの著作である『ボックス21』を訳したときに、日本が人身売買大国であるというのは調べて知っていたつもりでしたが、実際にこのような本を読むと、ほんとうにこんなことが日本で起こっているの……?と信じられない思いがします。

でも、『ボックス21』も、有名な映画『リリア4-ever』も、はじめスウェーデンでは「ほんとうにこんなことがスウェーデンで起こっているの……?」という反応だったんですよね。しかし実際に、一般のアパートが売春宿につくりかえられ、人身売買の被害に遭った女性たちを働かせているケースが、以来いくつもいくつも摘発されたことで、「ほんとうなんだ……」と社会の認識が変わってきていると思います。

じつはこの春にも大きな摘発があり、なんとスティーグ・ラーソンの『ミレニアム2 火と戯れる女』に実名で登場しているタレント、パオロ・ロベルトが買春客のひとりであったことが明らかになりました。その彼が「つらい子ども時代だったので……」などと言い訳(?)したので、「それで正当化したつもりか!?」と大炎上。女性が自分の意思でそこにいるわけではないことを、じゅうぶんわかったうえで買春に及んだとみられる発言もしたため、レイプ(同意なき性交)の疑いで捜査されてもいます。

『サバイバー』には、著者がお金や斡旋業者の情報を池袋駅のロッカーに入れていた、という記述もあって、私は『ボックス21』を思いだしてぞっとしました。

日本版『ボックス21』、ぜひ読んでみてください。

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